鹿野道彦 今日の主張

 ◎「学力格差将来広がる」9割


8月29日、公立小中学校長の9割が「20年前と比べて家庭の教育力が低下している」と受け止め「将来、学力格差が広がる」と見ていることが東京大学基礎学力研究開発センターの全国調査で明らかになったと読売新聞は報道している。「子供の学力が低下した」「子供を教えにくくなった」を含め、9割の公立小中学校長は将来的に学力格差が広がることを危惧しているということだ。

教育の障害の要因としては「家庭での基本的なしつけの欠如」を挙げ、「保護者の利己的な要求」が70%も指摘されており、このことに対して「国や自治体が対応していない」と80%の校長が不満を示している。更に「地域間の格差も広がる」と90%の校長が不安を抱いているとの調査結果であった。

全国の公立小中学校の認識が、如実に今日のわが国の初等教育現場の状況を物語っている。まさに教育こそが「国の基本」であることからすれば由々しき問題だ。人間形成にとって初等教育は本質的に一番大事であると言われてきた。この初等教育が崩れていることは、国にとって何よりも大きな損失であると捉えなければならない。実際に全国の公立小中学校の学級崩壊は予想以上に進んでいると言われている。あまりにも酷い状況から教育現場の労働の厳しさもあり、2年~3年で辞めていく教師が多いという。公立小中学校が破錠状態だから、恵まれた家庭環境の子供は私立校へと転校する。すると更に公立小中学校は好ましくない教育環境になっていく。いわば悪循環なのである。

今、根本的に公立小中学校の立直しが必要だ。そもそも自民党文教政策の一貫である「ゆとり教育」が、わが国の初等教育を歪めてしまった面もある。「たくさん教えると授業に付いて行けない子供が出るから」と公立校では教えることが少なくなった。そこで生活に余裕のある家庭の親は心配になり子供の初等教育の場を私立校に移し、更に塾にも通いさせる。そうすることにより子供の間での差が益々大きくなる。「差別をつくらない」と言ったにも関らず、結果的には差をつくってしまったのだ。

欧米では、民族・肌の色・宗教などで差別は勿論するべきでないが、すべて同一の教育はむしろ逆差別だとの考え方に立っている。わが国の教育も他国の真似をするわけでないが、能力に応じた教育を弾力的に行うことも考えてみても良いのではないだろうか。また調査では家庭の問題が指摘されているが、学級崩壊の現状は家庭環境の差も関係しているという。初等教育の差が将来の格差につながることになるだけに、今のうちに出来るだけ格差社会の拡大を是正することが大切なことではないかと考える。そして今日の小中教育の実状が子供の社会規範の著しい欠如につながり、少年犯罪を急増させていることを認識し、改めて家庭だけの責任ではなく、教育全体の問題として捉える必要があると思う。すなわち教える方も親もその他の教育にかかる全ての関係者も教育に取り組む意欲に欠けてはいないかを、もう一度見直すことが大切なことであると受け止めることにより、わが国の将来への新たな展望が量られると考えるからだ。そのためには、教師をもっと信頼し得るようにすることが大事であり、校長が教師を単に厳しい管理下に置くような教育現場ではなく、より教師に自由度を与え(もちろん許容される範囲があることは当然であるが)もっとのびのびと自信を持って子供たちに教えることが出来るようにすることを考えてみたらどうだろうか。そして基本的には何と言っても公立校の初等教育にお金をかけることを惜しまないことだ。このことは言うまでもなく国の未来を拓くためである。行政改革で教育も他の分野と一緒にされ、教員の数も少なくなっている。初等教育では少人数学級の実施が可能な教育現場の環境づくりに、もっと国も地方の自治体も力を入れて良いのではないだろうか。子供ひとりひとりに目配り出来ない教育で果たして良いのかを真剣に考える必要があるのではないかと言うことだ。

小泉首相が国会での所信演説で、将来の子供たちの教育のために使うとした長岡藩の米百俵の話を述べたことは、一体何だったのだろうか。今こそ長岡藩の精神を学び、言葉だけに終わらず実行することが重要なのだ。更に言えば、サラリーマンの一時間通勤時間と分校を廃止することによって子供の通学が一時間かかるようになっても止むを得ないという通勤と通学を同じ感覚で捉える考えが政府側にもある。政府の諮問機関での経済界から選ばれた委員の意見だ。すなわち教育分野までも効率優先の新自由主義の考え方を導入すべきという主張である。教育は人間の尊厳に関る根幹である。教育と経済行為と同じ視点から判断されるようでは日本の将来を更に歪めてしまうことになると考える。


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